【バンコク藤田悟】ベトナム戦争中に米軍がまいた枯れ葉剤の影響とみられ
る結合双生児の兄として生まれたグエン・ベトさんが6日、ホーチミン市のツ
ーズー病院で死去した。26歳だった。「ベトちゃん、ドクちゃん」の愛称
で親しまれるとともに、枯れ葉剤被害が日本でも注目される大きなきっかけと
なった。

 脳障害のため同病院で寝たきりの生活を送っていたが、今年5月末ごろか
ら肺炎などを発症して体調が悪化していた。

 ベトさんは81年、ベトナム中部の農村で、弟のドクさんと下半身がつなが
った状態で生まれた。86年にはベトさんが急性脳症を発症し、特別機で日
本に移送されて治療を受けた。

 88年に日本の医師も協力してツーズー病院で分離手術に成功。ドクさん
は松葉杖を使って歩けるまでになったが、ベトさんは同病院で入院生活を続
けていた。

 ドクさんは昨年12月に結婚し、同病院でコンピューター事務の仕事に従
事している。

 ◇弟ドクさん自ら支援者らに連絡

 ツーズー病院で3年前から日本語ボランティアをしている西村洋一さん(
65)によると、ベトさんは6日午前1時半ごろ、肺炎で亡くなったという。
一報は弟のドクさんからあった。「ドクさんは一心同体だった兄の死を悲しむ
余裕もなく、これまで支援してくれた日本やベトナム国内の団体、報道機関
などにまず連絡しなければと、夜が明けてもずっと忙しそうにしている」という。

 ベトさんは約4カ月前から、肺炎や血尿などの悪化で集中治療室(IC
U)と普段の病室を出入りする緊迫した病状が続き、かなりやせていたとい
う。「これまでも年1回ほど、病状悪化はあったが、今回は長いと心配して
いた」と西村さん。しかし、死の直前まで顔色は良く食欲もあり、5日昼に
姉に会った際も「今日は元気よ」と言われたばかりだったという。

 分離手術の88年から来年で20周年。西村さんは「病院は少ないスタ
ッフを工面して必死に看病していた。枯葉剤の被害の『生き証人』として、
兄弟を長く生き続けさせることに医師らは力を入れていた」と話す。ベトさん
は分離手術後も、重い脳障害で寝たきりだったが、西村さんは「昨年6月ご
ろ、ドクさんの婚約時にみんなで記念写真を撮ったが、ベトさんは弟の人生
の節目を感じ取っている表情だった。本当に頑張ってよく生きたと思う」と話
している。

 一方、「ベトちゃんとドクちゃんの発達を願う会」事務局長の河原正実さん
(59)=福井県若狭町=は訃報(ふほう)を聞き、「ドクさんとの分離手
術をしてから来年で20年になる。会のメンバーらと何かお祝いをしなけれ
ばと話していたところだっただけに残念」と話した。

 河原さんが2人に初めて会ったのは、分離手術の2日後の88年10月
6日。河原さんは、ホーチミン市のツーズー病院のベッドに横たわるベトさん
に「ベト、ベト」と何度も呼びかけた。ベトさんは86年に急性脳症になっ
た後遺症で返事はしなかったが、河原さんの手を握り返したという。手術後
、ベトさんが感染症にかかる度に、河原さんらは医薬品を送った。最後に会
ったのは5年前。ベトさんは、河原さんらが贈った車椅子に乗ってシャワー
を浴びる際、笑顔を見せたという。

 河原さんは「容体が芳しくないと聞いていたので、半分覚悟していた。でも
よく頑張って生きてきたと思う」と語った。【山田大輔、樋口岳大、山田奈緒】

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